第二部 パネルディスカッション

腎臓病の体験談

〈パネラー〉
飯野 靖彦先生(日本医科大学第二内科教授)
篠田 俊雄先生(社会保険中央総合病院 腎臓内科部長)
野口 和氏(慢性糸球体腎炎患者)
山崎 理奈さん(透析導入初期患者・松和患者会新宿南口支部会員)

司会  一ノ清 明氏(東腎協副会長 虎ノ門・高津会員)

 
司会 腎臓を患って長く保存期で、まだ透析に入ってない野口和さん、次に透析に入られたばかりの山崎理奈さん、お二方の導入時期とか慢性腎炎との長いつき合い方について、皆さんとディスカッションをしていただきたいと思っています。
 最初に慢性腎炎を長くやられております、野口和さんにお話しいただきたいと思います。

保存期の患者から

28歳の時に急性腎炎から慢性腎炎へ  野口 和
 私は旅行会社にいまして、55才になろうとしていますが、海外や国内の添乗で今でも現役です。今回、飯野先生から誘われまして、初めてこういう場についたわけです。
 私は小さいときから健康優良児で、どこも悪いところはなかったのですけども、のどだけが弱かったんです。当時扁桃腺がすぐ腫れました。
 その関係で今から27年前、28才のとき、大阪出張の帰りに高熱を出し、自宅に着いても熱が下がらないので、近くのお医者さんに診てもらいました。
 初めてそこで蛋白尿というのを知ったんです。それと「血尿が出た」ということを言われまして、すぐ国立病院の方に入院手続をしていただきまして、生まれて初めて入院しました。
 それから一生懸命、先生にも尽くしていただきまして、なにしろ急性腎炎で終わろうということで、ベットの中で悶々と、どこも痛くないんですけど「いろ、いろ」ということで、困ったなと思いながらもとうとう3カ月入院しました。
 結局、入院時は急性腎炎であったんですけども、蛋白尿が消えず、疲れると血尿が若干出るということと、血圧がちょっと不安定で、慢性腎炎という病名で退院せざるを得ませんでした。

退院後はほとんど出張業務でした
 退院しましても、腎臓というものはどこが痛いというわけでもないので、私も体力に自信があったもんですから、海外や国内も覚えなくてはいけないので、ほとんど1年の内半年ぐらいは出張業務でした。
 ただ薬はそこからのおつき合いです。当時、肝腎かなめと言われまして肝臓腎臓は薬がなく、血圧の安定剤ぐらいしかなく、それを飲み始めましたが、何しろ疲れさせないように、水をたくさん飲むようにということがお医者さんの指示でございました。
 当時、東大の第一内科の本田勝紀先生という腎臓の先生に約20年間面倒見ていただきました。本田先生も東大時代に腎臓1つ取って自分も体験しながら腎臓の先生になっている方なんです。

5年後には透析ですと宣告された
 その後に今の飯野先生をご紹介されまして、5年目です。初めて飯野先生とお会いしたときにショックな言葉が1つあったんです。それは、あと4年か5年たったら野口君は必ず透析間違いないですよ、もうそのぐらいの数字で動いていますよと。
 僕自身も覚悟はしているんですけども実際驚きました。ああ何でこういう病気になっちゃったのかなと思いながら、この年になって深く反省しまして。いずれにしろ先生におすがりしまして、病気とこれから本当に闘いが始まるんだなと、改めて思いました。
 当時、腎臓を治す薬ってほとんどありませんでした。血圧を抑える薬、尿酸を下げる薬、後はコレステロールを下げる薬ぐらいしか飲んでおりません。最近飯野先生からクレミチンという薬を「どうか」ということで3年前から飲み始めまして、1日3回飲むんですけど、出張が多いものですから朝と夜ぐらいでごまかしているんです。飲んでいる状況をみますと、大分いいのかなという感じはしています。
 皆さんも蛋白尿と、クレアチニンがすごく気になると思うんですが、僕は最初退院するときが0・6から0・7だったんです。40歳ぐらいになって、1・8、蛋白尿はプラマイゼロでちょっと疲れるとプラス1ぐらいでした。
 そんなにクレアチニンって大事な数値なのかなと思いながらも、40歳を過ぎてからあれよ、あれよってことで2・0から2・8まで上がったんです。この段階で、クレアチニンというものをよく勉強し、なるほどな40歳から50歳になるとあっという間に上がるんだな、というのがごく最近わかりました。
 それから、クレアチニンが2・8のときが2年ぐらい続いていたんです。2・8から3・0に上がったとき飯野先生を紹介されました。今は、3・2から3・3ぐらいで推移しているんです。今1カ月に1回先生に診てもらっているんですけども、「間もなくですよ、間もなくですよ」と言われます。でもできるだけ透析に早くかからないように大事にいきたいと思っています。

今一番注意していることは疲れさせないこと、風邪を引かないこと
 今僕が一番注意していることは、若いときは無理して仕事ももちろん残業、残業で、出張も飛んで回っていたんですけども、最近はできるだけ疲れさせないようにしております。それと風邪です。風邪を引いたらすぐ休むような努力です。
 なかなかサラリーマンなもんですから難しいんですけども、風邪は万病のもと、大敵でございますから風邪だけは引かないように努力はしております。ヤバイなというときは、やはり1日前ぐらいからちょっと横になるようなスタンスでおります。
 いずれにせよ自分の体は自分で守らなくちゃいけないというのが口癖なんでございますけども、何しろ自分を信じながら、透析にならないように今頑張っているんです。先生は5年目から野口君は透析になるということを言われていますから今、先生と勝負しているんです。よし、今年はならないようにしようかなということで、頑張っているんでございます。何しろ疲れさせないことと、風邪を引かないことを注意しながら、今やっております。

生活習慣は
 あと食事療法は、外食が多いもんですから、なるべく塩分の少ないものを注意しながら食べています。1日2食です。お酒、ビールは飲んでいます。たばこはもうやめて20年になります。酒は毎日、ビールは、先生にやめなさいと言われているんですけれども、ビール1本ぐらい今飲んでおります。まあ飲めなくなったら終わりかなと思うんですけれども、このお酒も近々やはりやめなくちゃいけないかなと、今言われております。以上体験談でございます。ありがとうございました(拍手)。

司会 どうもありがとうございました(拍手)。では続きまして山崎里奈さん、お願いします。


透析導入初期の患者から

むくみとだるさで仕事をやめ通院生活  山崎 里奈
 山崎里奈と申します。透析になりまして2年になりますが、私が腎臓病と出会ったのは、今から8年ほど前になります。
 私の場合は膜性増殖性糸球体腎炎というとても長い病気と、ネフローゼ症候群というのが一緒になって、すごいパンパンにむくみまして、だるさがとても強かったんですね。
 それまでお勤めしていたんですが、やはり行かなくなったりという形でやめざるを得なくなりました。食事療法しながらですけれどもそれから6年間自宅と通院の生活をしておりました。
 それで先生の「何年か先には透析になってしまうよ」という話を聞いてはいたんですけれども、自分の中では治るのではないかという希望で通院しておりました。

6年って透析導入

 6年たちまして、そろそろ透析の準備をしなくてはいけないという話をいただきまして、そのとき先生からの「一生透析をし続けなければいけない」という言葉は、やはり効くんですね。
 頭でわかっているんですが、それがとっても重い言葉でして、ふだん明るいのが取り柄な私なんですけれども、どーんと落ち込んでしまいました。それから透析の説明などがありまして、腹膜透析か、血液透析どちらにしますかという話ですよね。
 私の場合やはり乙女でもありますので、おなかに管が出るのはちょっとなあと思いまして、血液透析にしたんです。

シャントはすぐに人工血管に
 そしてシャントというバイパスのようなものをつくらなくてはいけないという、これもまた衝撃的なんですけれども、それをつくりました。ですが血管が細かったためにすぐにそれは使えなくなってしまったんですね。
 それから人工血管を入れたんですけれども、これは、最初から入れるというのはなかなか珍しいタイプらしいんですが、不幸中の幸いですか、これがとても合いまして、おかげさまで一年半無事に透析をすることができております。それはほんと感謝しております。

生きているうちに何か1つ残してといわれ、目からうろこ
 ですが人間って強いもので、肉体的な針を刺すというのは、なれていくんですけれども、どうしても精神的な部分がなれませんで、やはり暗い気持で病院へ通っていた時期がありました。
 そのときに、母の仕事関係の人と出会いがありまして、その方がおっしゃったんですね。世の中には寝たきりで仕事をしたくてもできない人もいるし、今の世の中は、健康でもいつ死ぬかわからないと。だからこうやって動いて歩いていられるんだから、生きているうちに何か1つ残していきなさい、ということをおっしゃってくださったんです。
 そのときに何か目からぽっとうろこが落ちたみたいになりまして、ああ私は8年間闘病している間に、体だけではなくて心も病気になっていたんだということに気がつきまして、これがすごく私にとって大きなことで、それから不思議なぐらいに考え方が180度転換しまして、透析に対しても、一生しなくてはいけない、やだという思いから、このおかげで生かしていただいているという、生きていられるという気持ちに変わりまして、感謝の思いに変わったんですね。
 それから通院も気持的に楽になりましたし。そんなときにずっと働いていなかった私が、ちょっと会社で2週間ほど手伝ってくれないかという話をいただきまして、私はずっと働いてないし、朝起きられないしと思っていたんですが、だめでもともとかなと思いまして、そこの会社に通い始めたんです。
 毎日朝起きて同じ時間にリズムをつくっていくと、これがびっくりすることに頑張れたんですね。自分でもびっくりしましたし、喜びにもなりました。また自信にもなりました。2週間どころか、それから首にならずに、今現在も月曜日から金曜日まで働かせていただいているんです。

映画の主題歌を歌う
 やはりそういう感謝の面がわいたと同時に、いろいろ6年間の闘病のうちに、だるさの中で、家族や母に当ったりして、そういう部分でも反省して、しっかり何か自分を改めて見詰め直すということが、ちゃんとできたように思います。そういう中から、見詰め直すことによって透析患者ですということを人前でしっかりと言えるようになりましたし、受けとめることが自分の中でできました。
 そういうふうになってから、またすごくいい出会いがありまして、漫画家の本宮ひろ志さんという方、「サラリーマン金太郎」をかかれている方です。その方から「銀の男」という今公開している、映画の主題歌を歌わせていただくことになりました。
 私を除きますとすばらしいメンバーで、音楽プロデュースが小比類巻かほるさんという方なんですけど、それでレコーディングをしたんです。レコーディングスタジオとも一流で、X JAPANのYOSYIKIさんのプライベートレコーディングスタジオをお借りすることができました。
 このCDが4月に発売されるんです。ちょっと宣伝になってしまいましたけど、ぜひ応援よろしくお願いいたします。

精神力は必ず肉体を超越できる
 最後になりますが、私はやはり精神力というのは必ず肉体を超越できると信じています。そう思いながら頑張っていきたいと思っていますので、どうか皆さんも素直な気持ちで頑張っていただきたいと思います。最後に迷惑をかけっ放しでした母を、紹介させていただきたいと思います。


女優業のお母さんより 久里 千春

久里 リーちゃんよくできてたじゃないの。けさの3時まで一生懸命に紙を読むって言いますから、いやあ、そういうのは皆さんに心が通じないから、やっぱり自分の言葉で話した方がいいわよと。
 そういうのやったことないからって言っていましたけど、今日はよくできていました。(拍手)
 ほら皆さんが認めてくださって。

「波乱万丈」という番組がきっかけで
 実は私、母親なんですけど、女優業をしておりまして、暮れに「波乱万丈」という番組に出ましたときに、娘が腎臓病を患って透析ということを口にしましたら、それから皆さんがお嬢さん透析なんですかって、すごい反響だったんですね。それで腎臓病に対しての関心がすごいんだなということと、それだけ腎臓病の人たちが増えている、透析をしている方たちが増えているということがよくわかりました。

健康な私にはわからなかった
 実は彼女が言ったように、家族の中で、いろいろともめごとがございました。こんな形であれしてるんじゃきっとものぐさいんだろうとか、そんなふうに考えていましたけれど、実はそうじゃなくてやはり体がだるかったんだというのは、健康な私にはわからなかったんですね。
 そんなことをしながら家族のコミュニケーションをとってきたわけですが、実は私は11年前に主人をS字結腸がんというがんで亡くしておりまして、その後すぐ彼女が腎臓病になったわけですから、まあ悲しいことの続きだったのですけど、母親としてはやはり子供の病気というのが一番心配です。
 それに透析ということになりましたので、これはとても悲しい出来事になったわけです。若かったしこれから結婚もするだろうし、子供が産めないという問題があって、すごい後ろ髪引かれているような形で生活してきたわけですが、実はそういうことで今彼女の話のように元気になりまして、だれが見ても透析しているの本当にっていうような感じなんです。

外に出て 人との出会いで元気に
 うちの中で、ああだめだ、私はだめなんだと思っていることがいかにだめかということ。やはり外に出ていくと、人といろいろな形で出会いがあり、何かがあるということでこんなふうに元気になって、最後に今のような恵まれた環境をいただいたというのも、これは自分の考え方一つだと思うんです。
 これから透析なさる方、それから今透析なさっている方、心の病気というのを外していただいて、ぜひ元気に自分なりの健康法を求めていっていただくと、元気にまっとうできるかなって。
 死ぬときはみんな一緒ですから。私だって何かあってすぐ死ぬかもわからないというふうに、最近は考えるようになりまして。
 ですから皆様も、きょうご家族の方もいらっしゃっていると思いますので、お母様方、家族の愛情というのがとても大切だなと私は思います。
 きょうはそういう意味で皆さん頑張っていただきたいと思います。それでは失礼いたします。

東腎協にCDの売上の1部を寄附
司会 もう皆さん御存じだと思うんですが、女優で長らく活躍されております、久里千春さんでいらっしゃいます。その娘さんが、山崎さんで、それから亡くなられたというお父様は山崎唯さんといってピアノをよくやられましたし、私たちの年代には懐かしい方でいらっしゃいます。その久里千春さんから今日は東腎協の方にご寄附をいただけるということで、今これから贈呈式を、お時間をいただいてやりたいと思います。
久里 実はそういう形で世の中不景気と、それから元気で頑張ってくれということで、1番は皆さんこの不景気ですから宝くじでも当たってクリ、まあ久里千春なのでクリっていうことで、それから2番目は病気の方たち健康に気をつけて頑張ってクリっていうのと、最後は愛情、家族の愛、親の愛それから出会い、そういう形で愛してクリっていう、この3番まである「開運福の神」というCDを出したんです。
 出したというよりこの東腎協に寄附するために。今私は全国公演に回っておりますので、そこでCDを売らせていただいて、その幾らかをご寄附しているわけ。きょうで2回目なんですけども、本当にわずかなんですけども、会長さんに贈らせていただきます。よろしくお願いいたします。
司会 ありがとうございます。
久里 頑張ってください。腎臓病の方も、これから頑張っていただきたいと思います。失礼いたしました。
会長 すばらしいお話ありがとうございました。またCDの売り上げの一部ということで、ご寄附をいただきましてご厚意に感謝いたします。ありがとうございました。また今後ともよろしくお願いします。皆さん盛大な拍手でお送りください。ありがとうございました。

司会 どうもありがとうございました。
 慢性の野口さん、それから透析に入った山崎さんについても、何か聞いているだけで前へ前へ進んでいるような形で、非常にいいお話をしていただいたと私も思っております。
 また先生方もそう受けとめてくださったんじゃないかと思っております。


会場からの質問と回答

司会 では、会場の方からも質問をいただいております。先生すみませんが、きょうは一応慢性期に関係あるような質問は飯野先生と、それから透析に関係することは篠田先生というように質問させていただきます。よろしくお願いいたします。

質問1
司会 では飯野先生に質問が来ているのですが、まず1つは蛋白制限すると筋肉が衰えてしまうが、これは何か問題があるのかということ。
 それから3年前に腎臓がんで腎臓を摘出してクレアチニンが1・0であったのが1・7から1・8ぐらいに上がってしまった。それと高血圧で降下剤も飲んでいる。この状態でクレアチニンの改善が食事療法などでできるのか。また血圧降下薬でいい薬はないか。例えば漢方薬みたいなのは。
 つけ足して晩酌はどうなのか。というご質問です。

蛋白制限というのは筋肉が減らない程度の制限
飯野 蛋白制限というのは、ある程度筋肉が減らない程度の蛋白制限というふうに理解した方がいいですね。
 ですから蛋白制限は0・7グラム/キロとか、もう少し少なくて0・6とか色々あります。先生によって違うんですけれども、そのくらいなら筋肉量は減らないです。
 ただしある程度ストレッチングとか運動はしといた方がいいですね。運動しなければどんどん下がる。普通の人でも筋肉量は落ちてきます。ですから運動プラス蛋白制限をすれば、筋肉量は減りません。

1つの腎臓だとクレアチニンは少し上る
 それから腎臓がんで片腎を取られた方ですね。これは1つの腎臓だとやはりクレアチニンは少し上がります。1・0から1・8ぐらいですから、そんなには悪くなってないと思いますので、こういう場合にはその腎臓がずっと働いて、特に腎炎にならない可能性が強いです。
 ただし蛋白尿があるとか、何か異常が出てくるようであったら、ある程度そういう蛋白制限、降圧薬を飲んだ方がいいと思います。
 それから一般的に、先ほども言いましたように血圧は下げていた方がいいです。血圧がどの位かわかりませんが、130の85未満にするようにしていただいたらよろしいと思います。
 それに降圧薬の種類ですが、これは先生によって違いますので何とも言えませんけれども、腎臓が悪い方ではやはりACE阻害薬とか、アンジオテンシンUの拮抗薬というのもをある程度使った方がいいんじゃないでしょうか。

漢方薬はまだ余り証拠がない
 漢方薬については余りエビデンスというか証拠がないんですね。ですから効くのもあるかもしれないけれど、漢方薬、民間療法も含めれば、何百とあります。
 それが全部効くかどうか、売っている人はみんな効くと言います。でもそれが証明されてないので、私は余り使わない。もちろん効く場合には、ある程度使う薬もありますけれども、ほとんど使いません。

アルコールは適量なら良い
 アルコールは少量なら構わないと思います。野口さんには飲んじゃいけないと言っているんですけど、これはアルコールをたくさん飲むと、夜遅くなるとほかの生活に影響があるということで、適量なら構わないということです。

質問2
司会 では次に、篠田先生の方に、透析を導入した方に腎移植について説明しているのでしょうかということですね。長期透析を行っている方も多いようですが、移植へ踏み切るきっかけや時期について、どのように説明されているかということ、もう1つ先ほどPDとHDの併用療法とあったんですが、
 保険適用はどうなっているのでしょうかというんですけど、その2点をまずお願いします。

透析を導入した方に腎移植について説明は
篠田 腎移植のことを話すかどうかというのは、患者さんごとにちがいます。
 現在日本の腎移植で、いわゆる死体腎移植、献腎移植というのが非常に少ない現状で、かつ家族の方から腎臓をいただく生体腎移植の方も残念ながら最近徐々に減っている状況です。生体腎移植の場合に、腎臓の提供者というのはほぼ大半が母親です。
 そうすると現在、透析導入される患者さんの平均は60歳です。
 60歳の方の母親というのは80歳ぐらいなんですね。そうすると60歳の導入の患者さん全員にその腎移植の話をしても、生体腎移植の機会がかなり少ない。
 それから献腎移植も非常にまだ我が国では少ないので、導入期に本来なら話すべきだとは思いますけれども、チャンスが少ない状況で話すことがいいことかどうかというのが、非常に私としてはその点を危惧していまして、ある程度元気になって、社会復帰なさってる方で、非常にアクティビテイが高いという方には少し元気になった上で、お話ししています。
 それから、例えば透析導入期から合併症があって、非常に心臓も弱っていらっしゃるというようなことがありますと、腎移植自身も、多少のリスクがあります。
 60過ぎた方でリスクもある方で腎移植をやることが、本当にその患者さんとって我々から見ていいかどうかというのに自信がない場合は、あえて積極的にはお話ししていません。
 ということで腎移植については、かなりケースバイケースでお話ししていますし、導入期には原則としては話さないで、少し元気になられてから話しているというのが私の現状です。

腹膜透析と血液透析の併用療法の保険請求
 それからPDと透析の併用療法というのに関しては、2年前の保険改正のときに、これは併用療法がいいとは書いてないですけども、2つの治療を併用した場合主な治療の方で保険請求しなさいと。
 保険請求というのは管理料というのがあるんですけどもそういった物は主な治療の方で取りなさいと。
 そのほかの方については材料費の請求はしてもいいということがございますので、現在ふだんCAPDをしていて、週1回透析をするような方はCAPDの保険請求で、週1回例えば月4回のその透析についてはダイアライザーの実費を請求するということで、恐らく月にプラス2万円ぐらいの保険請求で併用が可能だと思います。

質問3
司会 どうもありがとうございました。次に篠田先生の方に、リンと炭酸カルシウムのことです。リン吸着薬はできるだけ飲む量を少なく考えて、食事療法しておりますが蛋白質をとらなければ影響があるのではないでしょうか、もう少し詳しく炭酸カルシウムと食事の関連についてお知らせください。
 それからドライウェイトについて、同じ人なんですが、体重を押さえるように努力していますが、すぐにドライウェイト500上げましょうと、いわゆる病院側の方から簡単に上げられてしまいますと、血圧が下がりすぎて、平均80〜60だとだめだと思いますがどのように管理したらよろしいでしょうかという、2つの質問です。篠田先生お願いいたします。

炭酸カルシウムと食事の関連
篠田 リン吸着薬に関しては、現在日本で使えるお薬は炭酸カルシウムというお薬と、薬ではないんですが試薬で酢酸カルシウムという薬があります。
 それから医薬品として認められてないんですが、健康食品の中にリンゴ酸カルシウムと酢酸カルシウムを混ぜたフォスイーエックスという錠剤があります。
 一般的に使われているのが炭酸カルシウムです。
 炭酸カルシウムの場合、作用は腸の中で食べ物のリンとくっついてリン酸カルシウムという形にして、便の中にリンを出してしまうということが主作用なんですが、カルシウムが微妙に吸収されます。従って炭酸カルシウムの量がふえますと、血液の中のカルシウムが高くなってしまいます。
 食事の方に合わせて、炭酸カルシウムの量だけふやしていきますとどうしても高カルシウムになってしまいます。高カルシウムでリンが下がらないとカルシウムとリンも両方高くて、異所性石灰化ということを起こしやすくなるということがございます。
 従ってリンを制限しなければいけないんですけども、どの程度に制限するかというと、現在透析の方で大体お勧めしているのが、ドライウェイト1キログラム当たり1・2グラムから1・5グラムぐらいの蛋白量です。
 この量は、実はこの量の蛋白を食べて十分なカロリーをとってある程度の運動をしていれば、それほどひどく体の中の筋肉量が減っていくということはございません。
 ただ長期の透析になりますと、多少筋肉がどうしても減ってくるということがあるんですけども、それはその蛋白の摂取量だけの問題でなくて、長期透析の問題点というのがそれに加わって起こってくることですので、長期でない方に関してはドライウェイト1キログラム当たり蛋白量として、1・2グラム〜1・5グラムの摂取量で守っていただければ、それほどたくさんのリン吸着薬を飲まなくてもリンがある程度コントロールできます。
 で、意外とリンが多いのが乳製品。例えば、ヨーグルトだとかそういうのがお好きな方は、それでリンが高くなってきてしまうということもございます。もし現在の食事でリンが高くなりやすいということがあれば、病院の栄養士さんの方に1週間の食事箋を出せば、どこでリンが高くなっているかという問題点を見つけてくれるんじゃないかと思います。

司会 それからドライウェイトの管理の問題で、すぐ上げてくれとか言われちゃう。

ドライウェイトについて
篠田 ドライウェイトについては、これは心臓の状態が比較的現在いい方とかなり悪くなっている方とで、大分話が変わってくるんですね。いい方の方から申しますと、ドライウェイトの決め方というのは、それ以上除水しますと血圧がガタンと下がってしまう、あるいは透析終わった後立つと起立性低血圧というのを起こしてふらふらしてしまう、そうなる直前の体重をドライウェイトと言います。
 ただしここで注意しなければいけないのは、同じ体重に持っていくにしても、1時間当たりの除水量が非常に多い方はより高い体重で血圧が下がります。だから、いわゆる体重のふえ幅が多い方は見かけ上のドライウェイトが高くなってしまいます。
 そういう方に限って、除水しきれないで何年も続けているとだんだん体の中に水分がたまって、心臓がでかくなって弱っていってしまうということが間々あります。
 だから一番簡単なのは、月水金の患者さんだと、月曜日はなかなかドライウェイトに行かない。火木土の患者さんだと、火曜日はなかなかドライウェイトに行かないということがあると思いますけども、そういう方は週末までにともかくドライウェイトにもっていく、ということを目標にしてください。
 それでそのドライウェイトというのは今言ったように具合が悪くなる直前の体重ですので、例えば心臓が非常に弱った方だと、具合が悪くなる体重が非常に今度は高くなっちゃっています。
 それでも何とか無理して少しでも下げるようにしませんと、その方はさらにどんどん心臓が悪くなっていってしまって、ちょっとしたことですぐ息が切れるというような状況になってしまうと思います。だから、よくその辺のことを看護婦さんあるいは先生と相談して、今その患者さん自身の心臓の状態がどうなんだと。
 で、今後どういうふうにすればいいんだということ、先生の説明がわからなければよくわかるまで質問していただいて、で、体重をどういうふうにするんだということを相談しながらぜひ決めてってください。
 ケースバイケースなので、一概に上げろ下げろとはなかなか言えないので。

質問4
司会 副甲状腺についてどういう物かお聞きしたいということと、クレアチニンとかヘモグロビンとかいうのはどういう物かとか、それから両者の関係があるのかないのかというような質問です。

副甲状腺てどういうもの
篠田 副甲状腺というのは、人間の体の中で血液のカルシウムの量を調節しているホルモンなんですね。
 健康な人はどんなにカルシウムをたくさんとろうが余りとるまいが、今言った副甲状腺から出てくる、副甲状腺ホルモンとそれから腎臓がつくっているビタミンDと、その2つのホルモンが体の中のカルシウムの量をちょうどよく調節してくれています。
 ところが透析になりますと、腎臓が悪くなってビタミンDが足りなくなるものですから、血液のカルシウムがどうしても下がりがちになります。
 で、人間の体は腎臓が悪かろうが悪くなかろうがカルシウムを正常にしようと努力しますので、何をするかというと副甲状腺ホルモンというのが出てきて、下がったカルシウムを強制的に高くします。
 で、それはカルシウムということからするときわめて人間にとって正常なことやってるんですが、ただ体の中にカルシウムが十分に吸収されない。
 これはビタミンDが足りないからなんですけども、そういう状況でカルシウムを上げようとすると、何をやっているかというと、骨のカルシウムを溶かしだして血液のカルシウムを正常にしています。
 だから、透析の患者さんがビタミンDというのをうまく使っていかないと、見かけは正常なんですけども骨をどんどんどんどん溶かし出して、血液のカルシウムを正常化するということが起こっています。
 その仲介をやっているのが副甲状腺ホルモンで、だから透析の患者さんは多かれ少なかれ副甲状腺ホルモンというのが少し高くなっていきます。
 ただし、少し高くなっているぐらいが透析の患者さんでは最近ではいいんだということがわかってるんですけども、ただ余りにも高くなり過ぎますと骨がどんどん壊れますので、適正な副甲状腺ホルモンの量に調節してやる必要があります。
 そのために先ほどから出ているリン吸着薬というお薬とそれからビタミンD、この2つのお薬をうまく調節して、患者さんのカルシウムとリン、この2つを正常値に、いい値にもっていくというのが我々医者の方の仕事です。
 それからクレアチニンとヘモグロビンということについては、直接の関係はございません。ただもし何か関係あるとすると、例えば血液のクレアチニンというのは筋肉量の少ない方は血液のクレアチニンは下がりますので、小柄なお年寄りの女性はクレアチニンが低いです。それから筋肉質の大柄な男性はクレアチニンが高くなります。ヘモグロビンも多分元気と比例すると思うんですけども、筋肉マンは多分ヘモグロビンも高くなりますし、おばあちゃんはヘモグロビンも少し低くなると思います。だから因果関係はありませんけども、そういう意味では同じように動きます。

質問5
司会 次に透析中に耳鳴りがひどくなって、透析当日の朝まで続いてしまうのですが、原因は何か教えてください。2週間前ぐらいからは、薬はパナルジンという薬を服用していますが、耳鼻科では正常であると言われているということなんです。それからもう1つは透析中に溶血を起こしてしまって、めったにないことだというんですが、なぜこのようなことが起こるのかよくわからないので解説してくださいと。この方は透析もまだ1年半ぐらいで浅い方らしいんですが。この2点について篠田先生お願いします。

耳鳴りには透析中に血圧が下がらないように対処
篠田 はい、耳鳴りがなさるという患者さんは、恐らく比較的ご高齢か、あるいは糖尿病が原因の方じゃないかと思うんですけども。なぜそういうことを申し上げたかというと、透析中に耳鳴りがするというのは、大体片側の方が多いんですけども、透析後半に血圧が下がってくると、耳鳴りが恐らくひどくなってくるということではないかと思います。なぜそういうことが起きるかというと、これは耳鳴りのする方の耳の奥にある内耳というところが、その内耳の方に行く血液の量が減って、そのために耳鳴りがしたり、あるいは人によっては耳が詰まったような感じがしたり、あるいは軽いめまいが起こったりするということがあります。
 それは血流が悪くなるんです。血流が悪くなるのは、透析とともに血圧が少し低くなるんですけれども、普通はちょっとやそっと血圧が低くなってもそういうことが起きないんですけれども、どういう方に起きるかというと、もともと、脳の血管特に耳の方に行っている血管は、大もとのところはかなり細いんですね。椎骨動脈といって首の後ろの方を通っている血管から頭の後ろの方の脳は、そこから行っている血管、血流で養われています。
 そういう細いところに行っている血管の血圧が下がりますと、実際に行く血液の流れが非常に悪くなります。
 で、特にその耳鳴りの方の内耳の方へ血流が減りますと、耳鳴りがしたり詰まった感じがしたり目まいがしたりということがありますので、その患者さんの動脈硬化が少し進んで椎骨動脈が細くなっているということが、大もとの原因です。
 だからそこに関しては、残念ながら恐らく全く元に戻すということはできませんので、なるべく透析中に血圧が下がらないような透析をする。
 そのためには我々サイドがやることは、例えば透析時間を4時間から4時間半にするとか、或いは5時間にするとか。少しでも除水スピードを減らすことによって血圧を下がりにくくします。
 患者さんの方は、なるべく体重増加を減らしていただいて、1時間あたりの除水量を減らして透析中に血圧ががたんと下がらないように、そういうふうにすると。
 それからもう1つは、今パナルジンとかお薬が出ているようですけれども、そういう血行をよくするようなお薬を出していただいて、細くなった動脈の分を少し補っていただくというふうなことだと思います。

溶血について
 それから溶血については、集団でその透析室の中で何人も起こったとすると、それは透析液に問題があります。
 ただ、恐らく現在の水処理でそういうことが起こることはありませんので、起こったとすると、例えば除水スピードが非常に早くてダイアライザーに圧が非常にかかっていると。
 そうするとダイアライザーの中で血液が濃縮されまして、あるいは、最近のダイアライザーでは、膜の口径というのは少し大きくなったりしているせいもあるんですけれども、少し赤血球が引っ張られて、穴には入らないんですけれども、そういうところに吸い寄せられて壊れやすくなる、というようなことがありますので、恐らく除水のためにかなり圧が高くなってそれで溶血したんじゃないかと思います。

質問6
司会 あと1件今来た質問の中で、これは元、会長をやっていた泉山さんです。会場の中からちょっとご説明してもらえますか。
泉山 どうも貴重な時間ありがとうございます。この3〜4カ月、カルシウムが11 mEq/*$8435(ミリエクイバレント)ぐらいで、リンが7ミリグラムというような状態が4〜5カ月続いてまして、多分、オキサロールを10単位に上げたのが1つのきっかけだと思うんですが。
 そこで目的外使用でコレバインという、コレステロールを抑える薬のようですけれど、リンに効くんじゃないかということで服用したんですが、非常に副作用の多い薬のようで、ちょっと体ががたがたになりまして心房細動が出ているんですけれども。
 そういうことで、目的外使用の薬類ですね、特にカルシウムを抑えるようなものとか、ほかにもあるように聞いているんですが、どういう薬でどういう副作用があるか、余りデータが出ていないようなことも聞くんですが、そういうような件について先生からお話しいただければありがたいなと思って、よろしくお願いします。

リンとカルシウムのコントロール
篠田 コレバインというのは、多分腸でコレステロールをひきつけて、吸収させなくするイオン交換樹脂というお薬だと思うんですけれども、それにリンがつくのでついでにリンが下がるということです。
 もう1つやはり、高脂血症の薬で、度忘れしたんですけれども、それも目的外でリンを下げるために使う薬がありますけれども、それはあくまでも邪道です。今の、ご質問の方の、高カルシウムと高リンは、やはりオキサロールを10マイクログラムに多分上げたので、オキサロールといえどもカルシウムを上げる作用とリンを上げる作用があります。弱いですけれどあります。
 現在の状況を脱するには、オキサロールを5マイクロに一時的に下げて、その間に、やはり基本的な問題は恐らくリンが少し高めだというのがありますので、食事のリンを少し減らしていただいて、そうすると恐らく炭酸カルシウムの量を下げられますので、十分量のオキサロールが使えるようになるということです。
 なかなか薬だけでコントロールできない場合が多いので、やはり食事療法が基本なんですよね。食事でまずリンをある程度コントロールしやすくしてやって、十分量のビタミンDが使えるようにしていただくというのが、患者さんには難しいんですけれども我々からすると簡単なことなんです。

司会 ありがとうございました。そろそろ時間が来ましたので。
 それでは、パネラーの方にきょうの感想を一言ずつお願いします。
野口 貴重な時間ありがとうございます。これを契機に私もこれからますます腎臓に対して勉強しながら生きていきたいと思います。本日はありがとうございました。
司会 では、山崎さん。
山崎 お役に立てたかどうかはわかりませんけれども、勉強になりました。ありがとうございました。
司会 お二方の先生方。

カルペディエム
飯野 野口さんも山崎さんも非常に新鮮で、前向きな意見なので感銘しました。野口さんの5年目に突入になるというのは、私の誤診ですね。見立てが悪かった。
 それから山崎さんがおっしゃったように、前向きにというのは非常に重要なことです。僕の先輩の先生が言われた「カルペディエム」という言葉があるんですけれども、これは今日1日1日を充実させて生きようという、今日を生きるというような意味なんですけれども、そういう言葉が大好きです。ですから皆さんも「カルペディエム」で頑張ってください。

食事だけは少し気をつけていただきたい
篠田 今日一緒に時間を過ごさせていただいて感じたのは、野口さん、山崎さんを初め役員の方々も皆さん患者さんでいらっしゃるんですけれども、非常に元気で明るくいらっしゃるということに非常に感銘を受けました。
 やはり透析の場合長くなりますので、落ち込んでいるとせっかくの人生がつまらなくなります。だから前向きに考えていただいて、なるべく明るく元気で過ごしていただきたいと思うんですが、ただ1つだけ繰り返すんですが、食事だけは少し気をつけていただきたい。これは明るいのとはまたちょっと次元が違う話なので、ぜひご協力お願いしたいと思います。

司会 本日は、どうもパネラーの皆さんありがとうございました。先生には、講演から始まりまして今まで長い時間、ご協力本当にありがとうございました。皆さんひとつ拍手でお願いたします。では、短い時間でございましたが、これでパネルディスカッションを終了させていただきます。皆さんも、どうか今日のお話を参考に新しい方、これから導入される方もぜひ頑張っていただきたいと思っています。

東腎協 2003年2月3日 号外

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最終更新日:2003年4月7日
作成者:H.SUGA