| 第1部講演 | 生活習慣病と腎臓 | 講師・慶応義塾大学医学部内科腎臓研究室助教授 林 松彦先生 |
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| 林 松彦先生 |
○林 きょうはお休みで特別天気がよくて暖かい日の昼下がりに、腎臓病のお勉強をしようということでお越しいただきまして、まことにありがとうございます。あまり患者さんたちに講演をするという機会はないので、皆さんにどのくらいわかりやすくお話しできるか、わかりやすくても中身がなくては困りますし、中身をもっていて、やさしくするというのは非常に難しいお話ですので、私なりに一生懸命やらせていただきますし、またこの後自治医科大学、草野教授に私がお願いして特別講演をしていただきますので、その前座というようなことで聞いていただければと思います。
きょうのタイトルは「生活習慣病と腎臓」というお話でさせていただきます。私、慶應の内科の助教授をしておりますが、医学博士とともに、労働衛生コンサルタントという資格も持っております。これは大学の先生で持っている方は少ないのですが、労働衛生、いわゆる産業医などをやるために必要な資格の1つで、医者と一緒で国家試験を受けないといけないのです。その労働衛生コンサルタントですが、あまり都内で産業衛生をやっていますと有害物とかそういうことに関ることはなくて、やはり生活習慣病をいかにコントロールして予防していくかということが労働衛生でも主体になっております。
生活習慣病の定義
まず生活習慣病ってどんな病気でしょうかという、定義からお話ししたいと思います。旧厚生省が定義いたしましたその言葉のとおりですのでちょっとかたい言葉ですが辛抱してお聞きください。「生活習慣病とは、生活習慣の偏りにより頻度が高くなる疾患であり、反対に生活習慣の改善によりその発症を予防し得る疾患の総称」で、「生活習慣とは喫煙、食習慣、アルコール摂取、運動量、休養などを示す」と。要するに、生活習慣の偏りというとわかりにくいですが、平たく言えば不摂生をするとなりやすくなる病気と、いうことになります。
ただ生活習慣の偏りによって頻度が高くなって、改善によって予防し得るという表現は若干誤解があると思います。と申しますのは、主な生活習慣病は高血圧、糖尿病、高脂血症それから動脈硬化、脳血管障害、そしてきょうのテーマである腎障害ということになるのですが、生活が偏っていれば、必ずその病気は起こるのか。そして、生活の偏りを直したら病気は防げるのか。そういうことになってしまうと、例えばここにもいらっしゃるかもしれませんが、糖尿病から腎不全になった方はみんな生活習慣が悪くて、先生の言うことを何も聞かないで透析になったのだと、そういう誤解が出てくると思います。
それは誤った発想でして、病気というのは私たち医者の力不足ということもあり、進行して末期腎不全になるわけで、もちろんご本人の摂生の悪い場合もありますし、摂生しても進む場合もあるわけです。 ある雑誌からとってきたのですが、考え方として血圧で考えるとわかりやすいと思います。まず正常の血圧を140以下と考え、高血圧の人は血圧が140以上とします。(図1)この白い部分が体質で決まっている収縮期血圧、この黒い部分が体質で決まっている拡張期血圧、そうしますと世の中にはいろんな体質の人がいるわけです。もともと低い体質の人もいる。もともと何もしなくても血圧が高くなってしまう体質の人がいる。そこに不摂生をすると斜線の分ぐらい血圧が上がりますということが生活習慣病です。
ですから本来正常の血圧である体質を持って生まれた方が、不摂生をしたために高血圧になった。これが生活習慣病であって、もともと血圧が高くなる体質をもってお生まれになった方が、不摂生をしてもっと悪くなる場合もありますが、努力していても血圧が下がりにくい、こういうこともあるわけです。
こういうことを言うと、努力しても無駄なのかという話になりますが、決してそんなことではないのでありまして、血圧が高いか、正常ぐらいの方は努力しないと高血圧になってしまう。生活習慣病になってしまう。糖尿病も同じです。もともと血糖の上がりやすい方、上がりにくい方がいて生活習慣が偏って糖尿になってしまったり、もっとひどくなってしまったりするわけです。生活習慣を是正して摂生することは大事ですが、それだけで病気は治らないということもあります。

さて、最近ふえているものは脳卒中、それから高血圧、心臓病、糖尿病であります。これら生活習慣病が医療費の面で見てうなぎ登りにふえています(図2)。ただ気をつけなければいけないのは、70歳以上の方が全体的にふえていますから、老人がふえれば病気はふえるのが当たり前で医療費もふえるので、よく言われるように、医療業界が異常に収益を上げていて、そのために医療費を圧迫しているようなことはなくて、全国の公立病院、大学病院はすべて赤字ないしほとんど黒字が出ない状況でやっておりまして、単にご高齢の方がふえて病気がふえているという面が大半です。
何にしましても生活習慣病がなぜいけないかというと、とどのつまりは動脈硬化を起こしてくるというところにあります。血管の太いとか細いとかを問わずに腎臓も血管の塊ですから、血管が障害されてくることが病気に結びつくわけです。そしてその動脈硬化というものを防ぐためには、高血圧や高脂血症に加えて、耐糖能異常や肥満や喫煙、ストレス、運動不足などがいわゆる生活習慣ということになりますから、これら生活習慣を是正して、こういった病気の悪化を防いで、動脈硬化の進行を防いでいくということが基本になるわけです。それに対して治せないものとしては、動脈硬化は年をとれば進むし、特に男性はなりやすいし、遺伝的体質もあるので、こういったところはどうにもならないのですが、なるべく改善できる部分を変えていくことで少しでも病気の進行を防ごうという発想になります。

増え続ける糖尿病患者
糖尿病患者さんがふえております(図3)。糖尿病患者さんは昭和40年に比べて、約7倍ぐらいにふえております。入院患者さんも同じようにふえております。これをまず何とかしなければいけないと思います。と申しますのは、透析になる患者さんの何と38%が糖尿病です。実数として12,176人の方が糖尿病から腎不全になっております。


糖尿病から腎不全になって透析になる。もう1つ大きな問題は、この網膜症であります。(図5)。糖尿病は全身の細い血管を障害しますから、糖尿病網膜症で視覚障害を起こしてしまいます。厚生省の視覚障害というのは、極めて厳しい基準で定められますので、ほとんど失明状態です。年間約3,000人の人が、糖尿病から失明しています。透析になる人が1万2,000人。失明する人が3,000人。非常に大きな数だということが、おわかりいただけると思います。ということで、生活習慣病は生活の偏りと体質と絡み合って出てくる病気であり、そういう病気によって動脈硬化が進んでしまうことが問題で、その動脈硬化の1つの症状が心臓であり、腎臓であるわけです。

生活習慣病を予防、治療するためには、どうしたらいいでしょうか。まず1つ。肥満は万病のもとでございます。後で喫煙は万病のもとというのも出ますが、肥満は万病のもと。食事療法を心がけましょう。簡単に言うとこうなってしまうのですが、これですと5秒で終わってしまうので。何で肥満は万病のもとか、喫煙は万病のもとか、これをこれから少しお話しします。
まず糖尿病。先ほどから、お話ししております糖尿病が私たちの敵でございます。当面の敵をたたくためにはどうしたらいいか、その原因をまず知らなくてはいけないのですが、過去の肥満度と糖尿病の状況の実態を調べますと、糖尿病が強く疑われる人の、実に8割近くは、過去において10%以上の肥満傾向があったということです。(図6)。ただ注意していただきたいのは、2割の方は肥満がないのです。一生懸命に頑張って体重を抑えても、先ほどの話で体質が悪いと糖尿病になってしまう。こういう気の毒な方がいます。それは理解してください。ですが半分くらいの方は、やっぱり摂生が悪いのです。それも事実です。肥満は糖尿病だけではなくて高血圧、高脂血症、痛風とも結びついて、これらがすべて腎臓に対して悪い作用も示しますし、動脈硬化、心臓の病気、あるいは脳の病気、こういったものを引き起こしてきてしまいます。

ここで皆さんにお家に帰ったら計算機ででも計算していただきたいのですが、ご自分の肥満度。肥満度は最近は、ボディーマスインデックス(BMI)という指数で計算いたします。このBMIというのは、体重をキログラムで表して、それを身長をメートルであらわしたものの2乗で割ります。正常は22です。これが25以上の方は肥満になります。逆に、皆さんの標準体重は、この22に身長のメートルであらわしたものを2乗して、それを掛けてください。女性の場合には、若干身長が低めですので、このままの方法ですと体重がちょっと多くなり過ぎるので21.5。これが標準体重であり、これが肥満度です。これが、25を超えていると、やはり肥満と言わざるを得ません。22プラスマイナス1くらいに、とめていただけるといいと思います。(図7)

もっと怖いのは、小中学生にも、肥満児がふえてきています。2000年の統計ですと、6歳の子は、30年前の2倍以上の肥満。それから、12歳の子に至っては、3倍近く肥満児がいる。女の子も同じです。トラッキングと言いまして小学生、中学生で肥満の方は、大人になっても、中年になっても、ずっと肥満ということが知られています。ですから、子供のときに肥満であると困るのです。(図9)
何でこのように肥満がふえてきてしまったか。1つには、脂肪の摂取量がふえてきているからです。
昭和52年、これは私が大学を出た年なのですが、今から25〜26年前。このころは、食事の中の脂肪は23%の割合だったのですが、今は27%近い。気づいてほしいことがあるのですが、摂取カロリーはむしろ昭和52年よりも今の方が、統計上は百何十カロリーも少なくなっています。これは統計上の問題でありまして、例えば私は労働衛生をやっていると言いましたけど、会社でいろいろな方に面接して、肝臓の悪い方に、あなたはお酒を飲みますかと聞くと、はい、少し飲みます。お銚子を1本くらいですかね。後で、お友達に聞くと、大体お銚子3〜4本は飲むのです。医者の前に行くと、何となく格好悪いから、申告を減らそう。こういう発想が働きまして、全く同じ発想が、このカロリーにもあります。ですから、統計をとると皆さん「食べ過ぎていると格好悪いな、不摂生しているみたいでよくないな、ちょっと少なめに書いてやろう」という結果が、この百何カロリー減ったのであって、国でどのくらい食品がつくられて、どのくらい輸入しているかというのは、統計をとることができます。そうすると、52年よりも今の方が、圧倒的に1人当たりのカロリー数というのは、輸入食料や何かから計算すると多いのです。もっと2,400とか500であって不思議はないのですが、そういう心理で何となく少なく申告して、こうなっております。(図10)

脂肪の摂取量が増えると
脂肪の摂取量がふえると太ります。特に1歳〜15歳くらいまでは、30%近く食事の中が脂肪です。このために肥満児がふえてきているということが言えます。その原因の一つとして、時間があれば後で少しお話ししますが、お米をあんまり食べなくなってきているのです。食事の中のカロリーに占める、お米の割合が4割近かったのが、3割を切るくらい。それに対して、動物脂性食品が、20%〜25%近くにふえている。これが一つの要因です。(図11)
何で脂肪分の多いものを食べると太ってしまうか。それは脂肪分を多く食べていると、うまくカロリーのコントロールができないのです。これはそのことを試すために行った、ある実験の結果を文献からまとめたものですが、次のような実験を行ったとのことです。お昼御飯にカロリーの高いものを、いっぱい食べてもらいます。985キロカロリー。もう一方の人は、500カロリーくらいの低カロリー食を食べます。夕飯近くになって、どのくらいおなかがすきましたか。100ミリを一番おなかがすいたスケールとしたら、何ミリくらいですか。そう聞きますと、低カロリーの人は80ミリくらい、おなかがすきました。高カロリーの人は、その半分くらいの45ミリくらいしか、おなかがすいていません。あんまり、おなかがすいていないということです。夕飯をとっていただきました。炭水化物の多い食事、あるいは高脂肪の食事。2つに分けて、それぞれ違う人にとってもらいました。そうしますと、炭水化物を食べた人は、低カロリーで、いっぱいおなかがすいていて、680カロリー食べました。高脂肪の人は、空腹度は同じなのですが、炭水化物を食べた人に比べて、倍近く食べてしまうのです。1,470カロリーも食べてしまう。今度は、おなかがいっぱいなはずの人に、炭水化物食で夕飯を食べると、やっぱり670カロリーと、あんまり変わらないのです。高脂肪食を食べさせると、さすがに少しおなかのもちがいいのでしょうか、1,200カロリーですが、それでもやっぱり倍くらい食べてしまいます。同じにおなかがすいていて、食事をとると、炭水化物ならカロリーが少なくてすむが、脂肪をいっぱいとると、食べ過ぎるわけです。こういうことで、高脂肪食は、どんどん太るということになるわけです。(図12)
アメリカで、マクドナルドを訴えた方がいますけれども、要するに、ああいうポテトフライにハンバーガーというすごい高脂肪を食べると、食べ過ぎてしまうわけです。自然と太ってしまう。ですから、ああいうものはあんまり食べないように。特に子供にはあまり食べさせてはいけないということを、盛んに最近言うわけです。そんな飽食なのに、日本人の食事は、カルシウムが足りません。これは蛇足ですけれども。女性の方も、結構多くいらしてますので強調しますが、骨粗鬆症を予防するためには、カルシウムが大事です。あらゆる栄養素は足りていますが、カルシウムだけは足りていません。皆さん積極的に、カルシウムをとってください。乳製品が一番いいです。ただ、透析している方ですと、リンが上がるという問題が生じてくるので、かなり難しいですけれども。(図13)

高血圧は腎臓を悪化
もう一つ、高血圧を治療しましょうというお話です。高血圧は、自覚症状もなくて、だんだん、心臓、腎臓を障害します。早期発見、治療、適度な血圧維持が大事です。英語のスライドで申しわけないのですが、MRFIT。ミスターフィットと呼んでいます。332,544人の人をアメリカで、10年間何もしないで、ただ見ました。あるとき、こういう人たちを調査して、その人たちが、10年後にどうなっているかを調べたところ、814人の人が、腎不全になっていました。33万人中800人。決して多くはありません。これは、アトランダムに男性をピックアップしてきて、統計をとったわけです。(図14)
では、この腎不全になった人たちが、一番最初に調査したとき、血圧がどうだったかを調べてまとめたのが、このスライドです(図15)。そうしますと、上の血圧が180以上、下の血圧が110以上。180、110以上の人の腎不全発症率は、この200という値になって、逆に血圧が120以下、80以下の人は5。つまり、高血圧の人は40倍も腎不全になるということがわかったのです。血圧が上がるほどに収縮期にしろ拡張期にしろ、上の血圧にしろ下の血圧にしろ、血圧がだんだん高いグループになるほど、これを見ていただければわかると思うのですが階段状に腎不全の方がふえるということがわかりました。ですから、血圧は低ければ低いほど腎臓にはいいというのが、この研究から言えるわけです。しかし、血圧を下げればよくなるかといったら、また次の話になるんです。偶然、血圧が何かと一致しているのかもしれません。
本当に血圧下げたら腎臓の悪くなるのは抑えることができるのかどうかということがいろいろな研究で検証されています。これはそれらの研究を1つのグラフにプロットにしたものですが、治療しないで平均血圧が119のような人は腎機能の低下度を年間の糸球体濾過率の低下度というもので表したのですが、12という数字で悪化していきます。ですが、血圧をいろんなお薬で下げて、140、90未満、130、85未満と下げていくと、悪化度が6分の1にまで低下いたしました。つまり高血圧の人は腎不全になりやすいし、高血圧を治療すれば腎不全に進行していくスピードが6分の1にまで延ばせるということがわかってきました。(図16)
ということから日本高血圧学会ガイドラインでは、正常の血圧は、ほかにも理由もありますが、130の85未満ということを規定いたしました。できれば、120、80ぐらいにしましょうということに現在ではなっています。140、90以上はもう明らかな高血圧です。(図17)
その血圧の段階といろいろな他の因子からどのぐらいのリスクかということを大体規定いたしました。これは日本高血圧学会というところで決めました。軽症の高血圧というのは140、90以上で159、99未満なのですが、糖尿病がありますと、もう140の90でも高リスク群で、すぐ治療しなければいけないグループ、重症の高血圧でほかに何にもない人と同じような扱いになっています。それぐらい糖尿病は血圧に加えて怖い因子ということでもあります。(図18)
そして、そのガイドラインで高リスク群はどうしたらいいかというと、高リスク群は直ちに血圧の薬を始めなさいということになっています。ですから140、90以上で糖尿病の人はもうすぐ血圧の薬飲んでくださいと決められました。できるだけ早く正常化しましょうというぐらいに糖尿病のある方の高血圧は怖いということになっております。ほかに血圧が高かったら生活習慣も改善しましょうとなっています。(図19)
食塩制限7グラム。これは腎不全や透析の方は、多分これ6グラムぐらいと言われていると思います。これまで高血圧の人は8グラムぐらいがいいと言われていたのです。アメリカが6グラムという勧告を出して、今まで慣例的に8グラムなので、どうしようかとガイドラインの委員会が考えて、日本風に足して2で割って7グラムという数字を出してきました。6グラムか8グラムか7グラムかということは大きな問題ではなくて摂生しているということが大事です。ここでも1つ大事なのは適正体重の維持です。(図20)
あとはお酒を控えめに、女性は特に控えめにと言われています。禁煙が入っております。高血圧で塩分はよくないですという例として、甘塩であっても梅干しは梅干しでよくないです。梅干し健康法などありますけれど、ああいうものはよくないというのを、ここでちょっとお話ししたかっただけです。

高血圧の薬を飲み大切さ
もう1つ大事なのは、皆さんの中で腎臓が悪くて、あるいは糖尿病で高血圧の薬飲んでいる方いるかもしれません。そうすると大抵10人に何人かは聞かれる質問なのですが、「一度薬飲み出すとやめられないから私、血圧の薬飲みたくないです」こういう方が必ず何回かの外来に1回はいます。別にそういう習慣性のあるお薬ではありませんし、麻薬ではないので飲み始めたってやめられるのですが、「やめたらもとの血圧に戻るだけですよ」ということをお話ししています。
高血圧のときに薬を飲むということの意味をお話ししますが、まずライフスタイルの改善をします。高リスク群では薬と一緒にライフスタイルを改善します。成功すれば、そして血圧が正常化すれば薬はやめることができます。薬を飲み始めても長期間安定してライフスタイルが改善して、体質的ではなくて、ライフスタイルが悪くてなっている高血圧なら薬はやめられます。でも体質がもともとそういう方だとやめられないで継続します。こういうことであって一生飲み続けるわけではなくて、血圧の値によって、ご本人の努力によっては薬というのは減っていくし、やめることもできるということです。
これは糖尿病の腎臓病をイルベサルタンというお薬で治療するとどのぐらいよくなるかという傾向を、2年間見た研究結果です。糖尿病から腎臓病になった人の割合が、何も薬効成分を含まない偽薬では、どんどん腎臓悪くなる方がふえてくるのですが、このイルベサルタンという種類の血圧の薬を飲んでいると、5%ぐらいに、つまり3分の1ぐらいに少なくすることができるということがわかってきました。血圧を下げるには、こういう薬の種類も大事だということが最近言われています。(図21)
もう1つ糖尿病に戻りますが、2003年に「ニューイングランドジャーナル」という雑誌に載ったばかりの記事ですけれども、徹底的にものすごく一生懸命、糖尿病を治療した群と、普通にそんなに一生懸命でなく、いらしたら治療するというぐらいの群、そういう2種類の治療法で腎臓がどうなるかということを研究しました。すると腎臓病になる人は一生懸命治療すると、普通に治療している人の4割まで減らすことができました。つまり、やはり糖尿病というのはきちんとした治療をしていけば腎臓病や、その他の合併症を防ぐことができるのだということがこの研究でわかりました。だからあきらめてはいけないということです。(図22)
あともう1つ大事なのは、高血圧の方には、適度な運動も必要です。適度な運動はどのぐらいかというと、運動量として1日に平均150カロリーの運動です。急ぎ足で30分、ジャスダンスで30分、テニスで20分、軽いジョギング20分、軽い水泳25分。こう一言に言いますけれども、これは得意種目によって少し違うのではないかと私は思うのですが、私、水泳苦手なので、25分も水泳したら、翌日起きられないくらい疲れると思うのですけれども、そういう個人差はありますが、これは一つの目安です。歩くのもただ歩くのではなくて、急ぎ足で歩いてください。その方が体にはいいです。ただ、心臓病があると必ずしもこういうことできませんので、その辺はもちろん考える必要ありますが、心臓などに合併症がなかったらこのくらいの運動を勧めます。
もう1つ喫煙は万病のもとという話です。
たばこを20本以上吸うと心臓発作が3倍にふえます。女性でも3倍にふえます。喫煙で口腔がん、喉頭がん、そういういろいろながんになります。末梢動脈も障害されて腎臓病も悪化するということが知られています。
我が国の喫煙率は下がって、また上がって、ちっとも減りません。なぜか。いろんな理由があると思うのですが、1つには、新聞読んでいると、たばこに温情的だなと思うのですね。新聞記者やマスコミ関係の人というのは多くはたばこを吸うのです。だから温情的ではないかなとひそかに思ってしまいますが、あまり禁煙運動に熱心ではないですね。本当にそう思います。
今までのお話で、お酒は余り飲みません、ほどほどです。たばこも吸いません。食事はほどほどで美食もしないで、それで年とってどうするの、寝たきりがふえるだけではないかという、そういう話がまた出てきます。決してそんなことはありません。これは65歳以上の人が、65歳から、その余命の間、どのぐらい一人で暮らせたかという期間をパーセントであらわした図です。そうすると、日本は男も女も65歳以後自立している期間のパーセントが一番長い国なのです。寝たきり老人作っているなんて、よく新聞やテレビで言いますが、うそです。一番皆さん自立してくださっています。では、なぜ問題か。
老人が絶対数として多いのです。それから非常に平均余命が長いのです。だから1割くらいが、自立してなくても、長くて多ければ目立つのです。
それを絶対的な数とパーセントとをごっちゃにして、いかにも日本は寝たきり老人を作って、ただ生かしている医療をしているというように間違った情報が皆さんにインプットされているだけで、自信を持っていただいていいと思います。皆さんは世界で一番、老人が元気で長生きで、自立している国に暮らしています。(図23)

生活習慣病と御飯食
ここから先、生活習慣病の治療と御飯食について少しお話させていただきます。さっきお話ししたようにお米を食べる量が減ったから、太る人がふえたというようなお話ししましたが、それを証明してほしいということで、日本米穀協会から研究委託があって、高血圧、糖尿病の人に御飯食とパン食を食べてもらって、その人たちがどういう体重や血糖やコレステロールになるか、1カ月〜3カ月かけて調べました。
そうすると、お願いしたようにちゃんと御飯を食べてくれる人が85%ぐらい。ちゃんとパンを食べてくれた人が82%ぐらい、皆さんお願いすると、大体8割方は実行してくださいました。予想されたように同じカロリーをとっているのですが、パンだと脂肪がふえてしまいます。パンはバターがないと食べにくいですね。パンをそのままむしゃむしゃ食べる人少ないですし、ご飯はそのまま食べられます。少なくとも私は食べられるし、ちょっとノリでもあればもう言うことないです。そうすると、体重が62.8キロから御飯を食べた人は62.1キロに減って、パンの人は余り減りませんでした。(図24)
糖尿病の人は血糖で、とくにヘモグロビンA1cが、糖尿病患っている方はすぐわかると思うのですが、これは血糖の1カ月の平均値と比例する糖尿病の指標なのですが、御飯を食べると7.1〜6.6に下がりましたが、パンの人は6.4〜6.5で余り下がりませんでした。脂肪分が多いとどうしてもインシュリンの働きが悪くなって糖尿病が悪化しやすいのです。
コレステロールも御飯食だと減るということがわかって、パン食だと余り変わらない、ということで米穀協会の方の期待したとおりのデータが出てほっとしたというのもあるのですが、確かに御飯というのは最初にお話ししたようにおなかいっぱい食べたときにカロリーが少なくてすみます。透析している方ですと、無洗米にすることによってリンを減らすことができますから、そういうことで、ある程度カロリーをきちんととって、かつ食べ過ぎないですむという効能があります。別に米穀協会からもう何も支援受けてないので、余り宣伝する必要はないのですが、食事療法をしていく上では、御飯というのを上手に使わないとできないだろうと思っています。(図25、26)

厚生労働省から厚生科学研究費補助金というのをいただきまして、特定疾患対策研究事業というものを研究しております。
これには終わりの年度を書いてないのは毎年毎年評価がありまして、成果が上がっていると、これが15年に伸びますし、16年になるし、上がってないときは、14年度で終わってしまうのです。新潟大学、医科歯科、慈恵、阪大、国際医療センター、東大、多くの先生方のご協力で、一生懸命、透析になった方を何とかもう一度透析から離脱できないか、少なくとも透析寸前の方だったら透析にならないですむように腎臓の機能をもう一度戻せないか、そういうことを一生懸命研究しています。常識的に言うと、すぐにはできないので何年も何十年もかかるかもしれませんし、物事というのは進み始めると意外と速くて数年、10年の単位でできるかもしれません。ただ、毎日毎日透析受けている方はいらっしゃいますし、透析患者さんの死亡率というのは、やはり一般の方よりも高いですし、寿命は短いです。それに生活の質も大分悪いです。そういうことを考えて、私たちとしては1日も早くこういうことを実現したいと腎臓の再生、あるいは機能を少なくても維持するような治療法を完成したいと日夜努力しております。以上でございます。
東腎協 2003年11月15日 号外
最終更新日 2004年9月12日
作成:H.Suga