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透析患者のための医学入門講座 6

カルシウムとリンのコントロールについて

医療法人社団望星会望星病院理事・院長 北岡 建樹

北岡 建樹院長の写真

 透析患者さんの日常生活に大きく影響する合併症の中で、特に骨・関節に影響する合併症は日常生活の活動性の阻害因子として影響が大きいといえます。検査で血清カルシウムやリンの濃度異常を指摘され、コントロールの重要性を説得されても、すぐに体調への不具合は生じないことが問題です。長い年月をかけて身体を蝕んでいくために切実感がないといえます。この骨・関節の合併症を防止するために普段からカルシウム・リンのコントロールをしっかりすることが最も大切といえます。これには食事摂取と薬剤服用の問題があります。

過剰摂取は合併症を招く

 食事の中にはさまざまな物質が栄養素として含まれていますが、透析患者さんにとっては制限しなければならない物質があります。何でも欲求に応じて摂取すると、過剰摂取となり検査成績の不良を招くことになり、これが合併症の出現に関係するわけです。骨・関節の障害にはリンの摂取量が問題になります。腎臓の働きが低下してくると、食事中に含まれたリンが腎臓から排泄されなくなり高リン血症がみられます。このため腎臓から過剰なリンを排泄させるために副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されます。ところが腎機能が再び低下してくると高リン血症となってしまうためPTHがさらに分泌されることになり、しだいに副甲状腺機能亢進症が増悪すると考えられます。これと同時に、腎機能の障害により活性型ビタミンDの産生が低下してくることもカルシウム・リン代謝異常の大きな原因となります。
 ビタミンDは活性型となるためには腎臓の働きが必要です。活性型ビタミンDは腸においてカルシウムやリンの吸収を増加させ、同時に骨に作用して骨の形成に関係します。腎機能の低下した慢性腎不全ではビタミンDの活性化が行われなくなります。活性型ビタミンDが欠乏すると腸からのカルシウムの吸収が低下し、血清カルシウム濃度は減少し、これはPTHを分泌する刺激因子となります。このようなことから腎不全では二次的な副甲状腺機能亢進症が著しくなります。この病態は骨のカルシウムを遊離させ、血液中のカルシウム濃度を正常に維持する目的があるわけですが、骨自体は脆くなり、骨折しやすくなったり、骨・関節の痛みを呈するようになり、歩行障害など通院を困難とする腎不全に特有の腎性骨症を出現させてしまいます。

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リン吸着材はしっかり服用

図:腰椎のラガージャージ像
腰椎のラガージャージ像

 これを防止するためには高リン血症と低カルシウム血症を防止することが必要になります。高リン血症の原因は食事中のリンに由来するためリンを体の中に吸収されないようにすることです。このためリンを下げる薬(リン吸着剤)が処方されるわけです。現在では主として炭酸カルシウム剤が用いられ、粉末と錠剤の種類がありますが、どちらも服用しやすい薬ではありません。しかし食事ごとにしっかり服用しないと高リン血症はコントロールできません。食事摂取との時間があきすぎると、薬剤の効果は少なくなりますから、食直前あるいは食直後に服用することが大切です。
 血清リン濃度に応じてリン吸着薬の投与量が決められますが、服薬が不十分にも関わらず医師に虚偽の申告をしてしまうと、薬剤の量を増やされてしまうことになります。これだけの投与量を服用しているにも関わらず、血清リン濃度をコントロールできないとすると薬剤の投与量が足りないと判断されてしまうからです。血清リン濃度のコントロールの目標値は透析前に6mg/dl以下とするのが一般的です。この目標レベルを維持できるように投与量が決められます。このためしっかりと処方量を服用する習慣を付けることが大切です。もしも投与量が適切でなければ適宜増減して調整することになります。現在の投与量を服用して、血清リン濃度が3mg/dl以下になるようであれば投与量を減らすことが必要になります。これは自己判断で行うのでなく、主治医が決めることです。

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リン摂取は1日800mg以下に

図:指骨骨髄膜下吸収像
指骨骨髄膜下吸収像

 高リン血症のために炭酸カルシウムを一日9g以上も服用してもコントロールが不十分な人がいます。もしも薬剤の服用が本当に正確に守られているというのであれば、その人の食事摂取量、とくにリンを含有する食事量が多いことを意味しています。このような場合には低リン食、リンを一日800mg以下に制限した食事にする必要があります。リンは食事のほとんどすべての素材に含まれていますが、とくに蛋白質、乳製品、豆類、穀類、保存食品、練り製品などに多く含有されています。
 血清カルシウム濃度についても透析前の目標値は9mg/dl前後に維持されます。血清カルシウム濃度が8.5mg/dlを下回る低カルシウム血症であれば、ビタミンDが併用されます。ビタミンDの服用は腸からカルシウムの吸収ばかりでなく、リンの吸収も増加するため炭酸カルシウム剤の併用が行われることになりますが、両者併用により高カルシウム血症の出現することが危惧されます。このような状態が続くと、PTHの分泌を抑制させ、副甲状腺機能低下症の原因となります。最近ではintactPTHの検査によると患者さんの約60%以上に副甲状腺機能低下症の状態になっていると報告されています。この病態はいわゆる低形成骨や無形成骨といわれ、骨折を生じたり、血管壁や関節周囲の本来カルシウムが沈着してない場所に石灰化を認める異所性石灰化を招き、生命の予後が不良となるともいわれます。末梢の血管にまで石灰化がおこると血流が十分末梢にまでいかず、冷感、しびれ感、閉塞性動脈硬化症などが出現します。

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食事療法と薬物療法が必須

 高度の二次性副甲状腺機能亢進症ではパルス療法を行っている患者さんがいます。この治療法は活性型ビタミンDを通常服用量よりも多い量で、週に2-3回透析治療後に一度に服用させ、PTHの分泌を抑制することが目的です。本来のパルス療法というのは、経口的に投与するのではなく、静脈注射により行うものですが、やっと治験が終了し、近い将来臨床使用が可能になります。これにより副甲状腺亜全摘(PTX)の手術あるいは経皮的エタノール注入法(PEIT)により高度の副甲状腺機能亢進症を治療してきた部分を未然に防止することが可能になるわけです。このような治療法が実施されるとしても、基本としては血清のカルシウムとリンのコントロールをしっかりしておくことです。
 さらにリン吸着剤としてカルシウムを含有しない薬剤が米国ではすでに臨床応用されていますが、わが国においても治験が行われており、将来使用されることになると考えられます。高度の腎性骨症を未然に防ぐためには現時点での食事療法と薬物療法が必須であるということを肝に銘じておいてもらいたいと思うわけです。

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東腎協  2000年5月25日 No.133
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最終更新日時:2001年5月3日
M.KOSEKI