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透析患者のための医学入門講座4

透析治療における自己管理とは

医療法人社団望星会望星病院理事・院長 北岡 建樹
 

 天高く馬肥える秋、食欲の秋、スポーツの秋と、この季節は一年のうちでも過こしやすい季節といえます。
しかし,透析患者さんにと っては、必ずしもそうとは言えないかもしれません。というのは長期透析の患者さんや高齢者の人の中には年齢の点からあるいは食事療法の制限などから思う存分食欲を満足させることも自由に体を動かすことも容易でない人がいるからです。
 自己管理とは透析治療が実りのある治療となるように、自分で飲食物の摂取をコントロールして体重を管理し、カリウムやリンなどの検査成績を良好に維持し、薬物の服用により合併症の発生をできる限り抑え、運動能力を保持するように努めることにあります。
これにより日常生活の活動力を高め、張りのある人生を享受できることになるからです。透析治療に導入された時期には医療スタッフから自己管理の必要性を強調され、患者さんも自からの健康は自分で守るぞと覚悟をして、透析ライフを始められたと思われます。
 しかし、月日経過と共に、次第に自己流の生活習慣に流されてしまっている人が少なくありません。
再度初心に戻り、自己管理という点を考えてみるのも悪くありません。わが国において慢性透析により維持されている患者さんは、最新の報告をみると十八・五万人に及ぴ、新規導入の患者数も依然としで右片上がりの状態が続いでいます。
患者さんの平均年齢をみると五九・九歳、導入患者さんの平均年齢も六二・七歳と年々上昇が続き、高齢化社会の先取りがみられています。 原因疾患では糖尿病性腎症による末期腎不全がいわゆる慢性腎炎による末期腎不全を初めて追い越してしまいました。
さらに高血圧や高齢化による腎硬化症の頻度も増加し、ますます新規導入の高齢化が認められています。
このような状態において透析の施設も以前のような医療管理のままでは時代遅れとなり、高齢化を目標とした対応策を立てる必要があるわけです。特に食事の問題、リハピリの問題、通院介助・入院などの社会的問題を各施設が十分考慮してく必要があります。
患者さんにとっては生命の維持は慢性透析により保たれますが、長期化に伴って出現する全身的な多様な合併症をできる限り防止し、日常生活に必要な運動能力などの体力を養う必要があります。
我が国における透析患者さんの実態調査や統計調査の成績をみると、長期生存・予後に関していくつか因子との相関が検討されています。生存を低下させるリスク、危険因子には次のようなものが示されています。



1)基礎的な因子としで高年齢基礎疾患とくに糖尿病の存在

2)透析治療に関係する因子として、水分や塩分の管理(体重管理)、透析効率に関係する要因

3)栄養状態、血清アルプミン濃度さらに
4)長期透析合併症の因子としての高血圧、動脈硬化症の存在などがあります。
 もちろんこのような因子のほかに、生命の予後と直接には関係しなくても日常生活を阻害するさまざまな合併症があります。
例えば高度の貧皿、透析困難症といわれる透析治療中の血圧低下発作あるいは慢性的な低血圧症、腎性骨症や透析アミロイドーシスによる関節痛・骨痛、全身掻痒症や不眠、便秘などがあり、むしろこれらによる悩みの方が切実なものかもしれません。
 予後という点からは原因疾患や年齢についてはどうにも仕方ありませんが、自己管理として皆さんが取り組むことができるのは体重の管理、栄養の維持、薬物服用の厳守、糖尿病における血糖の管理やインスリンの注射などがあります。透析の効率などについては各々の施設備などの影響がありますからなかなか患者さん自身でどうこう条件を変更するとかは難しい点があります。
このようなことから皆さんが取り組むことが可能なものは食事療法と運動療法であることがわかります。食事は単なる治療という間題ではなく、グルメでなくてもおいしく、楽しく食れることが大切です。
あまりにも厳しい食事療法では本当に味も素っ気もない食事となり、生きている上では物足りないことです確かに透析息者さんとしての必要な栄養を考えた内容でなければなりませんが、それなりの工夫があるはずです。しっかりした栄養士のいる施設では健康人でもおいしそうと食べたくなる食事が治療食として提供されています。栄養士などをうまく利用して調理の工夫、見た目にも楽しく、食欲をそそる構成の食事を作るコツを教えてもらうことが一番です。
それに運動療法としてリハビリをかねて日頃から体力に応じた運動、散歩などを行うことが大切で歩行の困難な人でもベッド上でできる手足の屈伸運動などによリ筋力の保持、手指運動を行うことも手根幹症候群の進展防上に必要です。
糖尿病の人ではこのような運動により血糖のコントロールも改善させることもできるはずで高齢化社会においては他人の手を借りないで、できる限り目分のことは自分でできるということか必要になります。このためにも日常生活の活動力を日頃から鍛錬しておくことに意味があるといえます。食事療法と運動療法によりQ0L(生活の質)を向上させることが大切であると思います。もう一度初心にもどり食事療法や運動療法を見直してみましょう。自分で調理をしたり、公園や名所を散歩をしたりすることは皆さんの生きがいにも繋がることになるはずです。
東腎協 1998年7月20日 No.126
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最終更新日時:2001年6月24日
確認:M.KOSEKI