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丸茂先生透析患者のための医学入門講座1

透析を始めたあなたに

東京医科歯科大学教授 丸茂文明
 

 血液透析、CAPDなとの血液 浄化を始める患者さんは年々ふえ ており、図1にみるようにこの1 0年間で2倍弱になっています。 一方,年間総透析患者数の増加が 透析導入者の増加をかなり上まわ っていることは、透析者の生存率 の向上を示すもので大変喜ばしい ことてす。これは透析者の自己管 理の向上、そして医療機器の発展 が透析医療への経済的圧迫をはね のけて大きく進んだことを意味し ます。しかし、1980年代ある いはそれ以前に導入され透析発展 期を苦労して生きぬいたベテラン 透析者からみると、最近の透析導 入者の心がまえに若干心もとない と感じるようです。ここでもう一 度,透析導入期の注意を考えてみ るのも大切かもしれません。

自分の生命は自分で守る

 こんなこと当たり前のことです ね。しかし、最近の透析機器の効 率アップでかなり食事も楽になり ました。多少体重がふえてきても そうつらくなく引いてくれるよう になりました。気のゆるみはない でしょうか。

1.体重のふえは生命をち じめる−−−塩分制限の 重要さ−−−

 塩分の入った水は細胞内に入れ ませんので、細胞外、ことに血管 の中に留まります。血管内の血液 水分がふえれば、それを送り出す 心臓に負担がかかり,血圧も上昇 してきます。毎透析ごとに血液量 がふえたり元に戻ったりしていれ は心臓もくたびれてきます。心臓 肥大、心筋症といった病名がつく ようになります。透析間の体重増 加は理想的には1.0〜1.5 s、できれば2.0s以下に抑え たいものです。食塩は5gで抑え るのが望ましいと思います。自分 の心臓をどれ位もたせるかは御自 身で決めることですから、決して 強制はしません。現在の透析技術 から言えば、自己管理がよければ 健常者並の生活と生命予後が期待 できるのですから、「自己管理」 の大切さを考えてください。

2.自由食で本当に良いの か−−−タンバク質と リン−−−

 タンパク質を自由に食べてよい とする透析センターも少なくあり ません。でもいくらても沢山食べ て良いと言うことには疑問があり ます。それはリンの問題です。タ ンパク質を食べると確実にリンが 一緒に入ってきます。リンを落と す沈降炭酸カルシウムはあまり多 くすると血中カルシウムが上がっ てしまいます。血中カルシウムと リンの値をかけたもの(Ca X  P)が20〜30が基準値です。 これが60以上になると異所性カ ルシウム沈着症というリン酸カル シウムが沈着する状態になりま す。その典型的な写真を示しま す。大腿骨、骨盤のあたりに沢山の リン酸カルシウム結晶がみえま す。これほどのことにならなくと も、Ca X Pが60以上になれば 大動脈や心臓の血管(冠状動脈) にリン酸カルシウムが沈着して動 脈硬化になったり、動脈にカルシ ウムのかたまりができてしまいま す。透析者はもともと動脈硬化は 健常者より起こりやすくなってい るので、自分で生命を縮めるよう なものです。血中りン値に注意し ましよう。

 

3.まさかタバコは吸って いないでしょうね

 タバコは透析者にとっては、肺 ガンよりも心臓や脳血管に対する 悪影響の方が心配です。タバコは 動脈硬化を促進すると共に血管を 急に収縮させ心筋梗塞、脳梗塞を 引き起こす恐れがあります。高血 圧があれば特に心配です。その 他、日常生活に気をつけるのは当 然てす。

社会への還元を考えていますか

 日本国民は健康で文化的生活を する権利を憲法で保障されていま す。ですから、透析患者であれば 当然の権利として治療を受け,よ り早く社会復帰ができるよう援助 をうけるのはあたりまえです。た だし、体調が社会復帰できるよう な状態,即ち透析者になったら、 社会復帰をどう果たすかが課題で す。ひとつは本人の生きがいのた め、もうひとつは年間500〜700 万円の医療費を税金でまかな ってもらっているからてす。この 医療費は国民の権利として使って いるのですから全く卑屈になる必 要はありません。権利は常に義務 を伴います。憲法には勤労の義務 も明記してあります。透析者に対 する社会の壁は低くないことは承 知しています。社会復帰の努力を しましょうということです。この 努力が国民に高額の医療費を使う ことを理解してもらうことにつな がるでしょう。

東腎協 1998年7月20日 No.126
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最終更新日時:2001年4月29日
確認:M.KOSEKI